鴨田君の個展によせて
鴨田君は深みのある漆の美しさ、堅牢さに魅せられて芸大の学生の頃より生活工芸品、特に食器を主に「用即美」をモットーに漆器の伝統的な感性を彼独特の技法で表現しています。情熱とたゆまざる努力で着々と実力を発揮して多くの愛好者を得ています。今回展も心あらたに作り手使い手の気持ちを大切に新鮮なデザインの器が陳べられることで楽しみです。
どうか一人でも多くの方々に観ていただき漆の美しさと手ざわりの良さを再発見していただくことを念じます。
文化勲章受賞 高橋節郎
食堂の棚に、鴨田雅文氏の高杯が飾ってある。脚つきのお椀といってよい。大が一つと小が五つのセットである。我が家にある様々な陶磁器や漆器の中で、私はこれが一番気に入っている。すっくと立った姿勢が凛としていて、部屋の空気を締めている。この高杯が部屋を変えてしまっている。漆特有の渋くたおやかな朱が心をなごませてくれる。
ゴッホもルノワールも好きだが、この高杯にみなぎるりりしさと優雅さは、より自然に、より深く、私の胸にしみ入る。私は毎朝これを眺めながら、日本人として生まれた幸せさえ感じている。
数学者・随筆家・お茶の水女子大学教授 藤原正彦
天然林の形成している樹は美しいが、人の手によって磨きに磨かれた漆芸作品もこの上なく美しいと思ったのでした。人の手業が、こんなにも木を完成させるのです。木地師の手をへて漆芸家によってつくられたこの器こそ、森の精髄でしょう。
鴨田雅文氏の作品は、ぬくもりがあるのに鋭い。深みがあって重そうなのに、実際に持ってみると軽い。この矛盾をひとつの器の中に統一しているのです。
こんな器で山や海の精髄を食べることこそ、人生の至福というものでありましょう。
作家 立松和平
すべての芸術にいえるのだが、極めつくすということはありえない。いってもいっても、道は果てないのである。まして伝統工芸である漆芸は、美を達成することはもとより、用の役目も果たさねばならない。飾っておくものではなく、生活の用を足すものなのだ。
このところ毎年個展を開くようになった鴨田雅文氏は、多くの人から嘱望されている若き漆芸家である。彼の仕事ぶりを毎年見て、できることなら自分の生活を豊かにしたいと願うのは、当然の人の欲求である。 私たちの暮らしとともに歩む漆芸家の出現を喜びたい。
作家 立松和平
昔、国宝級の茶器に触れる機会があった。
それがびっくりする程軽かったのである。きっとずっしりと重いのだろうと思いきや見事に裏切られた事を今でも覚えている。鴨田雅文氏の直径30cmくらいの漆器を持った時も軽くて驚いた。名品というのは得てして軽いのかも。
鴨田氏の作品はその軽さとは逆にあでやかで緻密で大胆で深度がある。日本工芸の伝統にとらわれず、氏の日本美の可能性を追求する姿勢には頭が下がる思いである。 作品は日本芸術の一つの方向を示唆している。表層だけがもてはやされている現在、このような本物だけが残り得るのだろう。
建築家 中山眞琴
鴨田雅文君の個展によせて
- 器こそ美の総合 - を信条として使って楽しい漆器を作っている鴨田雅文君がここ数年間の作品を発表します。
まさに器は掌中の宇宙です。彼は漆器の魅力を深い色調と触感美にあると言う。利休も黒漆ぬりの一棗一を最も重要な道具に位置づけています。それは手のひらにすっぽりと馴じみながら用いるものだからです。
ご高評をお願い申し上げます。
東京芸術大学教授 大西長利
鴨田氏の作品展に寄せて
鴨田雅文氏の作られる漆器は、しっかりとした作りと深い色使いが魅力です。しかも、作品展で眺めるときよりも、自分の部屋に置いていると、何か少しずつ馴染んでくるようで、控えめな美の世界にいるような気がしてきます。
「どうぞ、普段の食事に使って下さい」と言われ、まず箸を使い、次はきれいな和菓子をお皿に飾ってなどと楽しむようになりました。
法律という学問に携わっている者にとって、全く別の世界を開いてくれた鴨田氏には深く感謝申し上げます。
立教大学法学部教授 舟田正之
十二年前、素晴らしい「うるし絵」の鴨田作品に出会いました。以来、独自の技法と深い色使いには魅了され続けております。 漆の器は日々使ってこそ堅牢性がわかります。
うつわ一客 高木延子